事業再構築補助金のサプライチェーン強靭化枠とは

COLUMN お役立ちコラム

2023.02.20

事業再構築補助金

事業再構築補助金サプライチェーン強靱化枠の要件や対象経費について

はじめに

2023年度の事業再構築補助金で新たに追加された「サプライチェーン強靱化枠」。補助上限が5億円となっており、多くの製造業者におすすめの補助金ですが通常の事業再構築補助金とは異なる点も多く、注意が必要です。今回は事業再構築補助金サプライチェーン強靱化枠について、徹底的に解説します。

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事業再構築補助金のサプライチェーン強靱化枠とは

事業再構築補助金のサプライチェーン強靱化枠とは

事業再構築補助金のサプライチェーン強靱化枠とは、製造業を営む中小企業等が対象になる、最大5億円が補助される補助金です。海外で製造する部品等の国内回帰等を進め、国内サプライチェーンの強靱化および地域産業の活性化に取り組む事業者が補助対象になります。 主な概要は表の通りです。

項目 内容
概要 国内サプライチェーン強靱化及び地域産業の活性化に資する中小企業等の取組を支援
補助金額 中堅企業、中小企業 1,000万円 ~ 5億円以内 ※建物費を含まない場合は3億円以内
補助率 中小企業者等 1/2以内 中堅企業等 1/3以内
補助事業実施期間 交付決定日~28か月以内 (ただし、採択発表日から30か月後の日まで)
対象業種 製造業
補助対象経費 建物費、機械装置・システム構築費

事業再構築補助金のサプライチェーン強靱化枠は国内サプライチェーン強靱化及び地域産業の活性化に資する中小企業等の取組を支援」するとされており、事業再構築指針に新たに追加される予定の「国内回帰」の要件を満たすことが求められます。

参考:事業再構築指針の手引き

2022年2月現在「国内回帰」の詳細な条件は不明ですが、サプライチェーン強靱化枠の利用イメージが事業再構築補助金の事務局より公開されており、サプライチェーン強靱化枠がどのような場合に利用できる補助金となるかを推測することができます。

サプライチェーン強靱化枠の利用イメージでは「これまで海外の生産拠点で製造していた製品を国内で製造するために補助金を活用するケース」と、「取引先がこれまで海外で調達していた製品について、国内で製造できないか取引先から申請者に対し、打診があり、対応するために国内生産拠点を新たに設立するケース」が記載されています。

上記のことから「国内回帰」の要件を満たすためには必ずしも現時点で海外での生産を行っていないとしても取引先からの要請があれば国内の新たな生産拠点の設立に要する費用が補助対象になることがわかり、国内でのみ生産を行っている多くの製造業者についてもサプライチェーン強靱化枠の利用ができる可能性があることがわかります。

サプライチェーン強靱化枠の申請要件

サプライチェーン強靱化枠の申請要件

サプライチェーン強靱化枠の申請要件は次の通りです。

①国内回帰の取組であること(今後、事業再構築指針で示す「国内回帰」要件に該当すること。)
②事業計画を認定経営革新等支援機関と策定すること。補助金額が3,000万円を超える案件は認定経営革新等支援機関及び金融機関(金融機関が認定経営革新等支援機関であれば当該金融機関のみでも可)と策定していること
③補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均5.0%以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均5.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること
④取引先から国内での生産(増産)要請があること(事業完了後、具体的な商談が進む予定があるもの)
⑤取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること
⑥下記の要件をいずれも満たしていること
⑴経済産業省が公開するDX推進指標を活用し、自己診断を実施し、結果を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に対して提出していること。
⑵IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★★ 二つ星」の宣言を行っていること。
⑦交付決定時点で、設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと。ただし、新規立地の場合は、当該新事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高くなる雇用計画を示すこと。
⑧事業終了後、事業年度から3~5 年の事業計画期間終了までの間に給与支給総額を年率2%以上増加させる取組であること
➈「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにて、宣言を公表していること。

 通常の事業再構築補助金以上に多くの要件が設定されているため、すべて解説させていただきます。

要件①:国内回帰の取組であること

事業再構築補助金のサプライチェーン強靱化枠に申請するには、補助事業の内容が事業再構築指針の「国内回帰」の要件を満たす必要があります。2022年2月現在、事業再構築指針の「国内回帰」の要件は発表されていませんが、事業再構築補助金の事務局が公表している資料から「海外で生産を行っている事業者が国内に生産拠点を移転するために工場を新規に設立すること」や「国内で生産を行っている事業者が、現在海外調達している製品を国内から調達したい取引先からの要請に応えるために新たな生産拠点を国内で新設すること」などが要件になると思われます。

また、上記のような「国内回帰」要件から補助対象になる事業者は製造業の事業者のみとなります。

要件②:事業計画を認定支援機関と策定すること

事業再構築補助金の他の申請枠と同様、事業計画書は認定支援機関と共に策定することが必要となります。また、補助金額が3000万円を超えるケースでは認定支援機関確認書に加えて、金融機関に確認書を発行してもらう必要がある点も他の事業再構築補助金の要件と同様です。

▼認定支援機関とは?認定支援機関の探し方を解説
https://meditips.jp/howto-find-ninnteishiennkikann/

金融機関によっては金融機関確認書の発行に1ヶ月前後を要することもあるため、補助金額が3000万円を超える事業再構築補助金の申請を行う場合は事前に金融機関に相談しましょう。

要件③:付加価値額の年率平均5.0%以上増加する事業計画を策定すること

サプライチェーン強靱化枠の申請では「補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均5.0%以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均5.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること」が求められます。

他の事業再構築補助金の申請枠では年率平均3.0%以上の増加を求められていることから、サプライチェーン強靱化枠では他の申請を行う場合よりも高い付加価値の増加を求められていることがわかります。

なお、付加価値額要件については仮に達成できなかったとしても補助金の返還等のペナルティは発生しません。ただし、提出した事業計画に記載された数値計画について、本当に付加価値額が年率平均5.0%以上増加する取組となっているかは厳しく審査されるため、計画を策定する際は付加価値額を上げることができる妥当性に特に注意する必要があります。

要件④:取引先から国内での生産(増産)要請があること

サプライチェーン強靱化枠の概要資料には「取引先から国内での生産(増産)要請があること(事業完了後、具体的な商談が進む予定があるもの)」という要件が記載されています。

他の事業再構築補助金の申請枠でもニーズがあるかどうかは審査項目になっていますが、サプライチェーン強靱化枠では実際の取引先から生産要請があることを書面等で示す必要がある予定です。

要件⑤:市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること

サプライチェーン強靱化枠はどんな取組内容でも補助対象になるわけではなく、市場規模が拡大している業種・業態に属していることが求められています。具体的な要件は下記の通りです。

取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態(※)に属していること
※対象となる業種・業態は、事務局で指定します(公募開始時に事務局HPで公開予定)。指定された業種・業態以外であっても、応募時に要件を満たす業種・業態である旨データを提出し、認められた場合には対象となり得ます。

公募開始時に事務局が指定する業種・業態に属していない場合はそもそも申請できませんが、指定された業種以外であっても、応募時に要件を満たすことをデータで提出することで認められます。

なお、この業種・業態は成長枠やグリーン成長枠といった他の申請枠でも使用される要件なので、比較的幅広い業種・業態が認められると思われます。

要件⑥:セキュリティ対策に関連する宣言等を行うこと

事業再構築補助金サプライチェーン強靱化枠に申請するにはセキュリティ対策を行うことも必要です。具体的には下記の要件をいずれも満たすことが求められています。

⑴経済産業省が公開するDX推進指標を活用し、自己診断を実施し、結果を独立行政法人情報処
理推進機構(IPA)に対して提出していること。
⑵IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★★ 二つ星」の宣言を行っていること。

(1)のDX推進指標を活用した自己診断はものづくり補助金のデジタル枠でも採用されている要件で、自社のデジタルセキュリティに対して自己診断を行う必要があります。詳細は下記のDX推進指標サイト等から確認することができます。

・DX推進指標サイト:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html
・自己診断結果入力サイト:https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html

この項目からサプライチェーン強靱化枠は単に生産の拠点を国内に移すのみならず、安全なDX化も同時に求めるものであることがわかります。

(2)の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の要件もものづくり補助金のデジタル枠に存在した要件ですが、サプライチェーン強靱化枠では「★★二つ星」の宣言が必須となっています。 二つ星では中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握したうえで、情報セキュリティポリシー(基本方針)を定め、外部に公開する必要があります。詳細は下記のページをご確認ください。

SECURITY ACTIONとは?:https://www.ipa.go.jp/security/security-action/sa/index.html

要件⑦:事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと

12月の概要発表の時点で予定されていた賃上げの要件の詳細も判明しました。

まず、最近多くの補助金で採用されている最低賃金に関する要件です。サプライチェーン強靭化枠に申請するためには「交付決定時点で、設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと。」が求められます。ほかの多くの補助金では補助金を受け取った後に賃上げの要件を満たすことが求められるのに対して、サプライチェーン強靭化枠では交付決定の時点で地域別最低賃金よりも事業所内最低賃金が30円以上高いことが求めらる点が特徴となっており、交付決定前にあらかじめ賃上げを行っておく必要がある事業者もいるものと思われます。

要件⑧:給与支給総額を年率2%以上増加させる取組であること

また、給与支給総額についても厳しい要件が設定されています。

給与支給総額については「事業終了後、事業年度から3~5 年の事業計画期間終了までの間に給与支給総額を年率2%以上増加させる取組であること」が要件とされており、最低賃金を上げるのみならず雇用を拡大するか、既存従業員に支払う給与を賃上げすることで要件を達成することが求められます。

なお、賃上げに関連する要件については未達の場合は補助金の返還を求められる可能性が高くなっております。

要件⑨:「パートナーシップ構築宣言」の公表をしていること

サプライチェーン強靱化枠に申請するための最後の要件は「パートナーシップ構築宣言」の公表を行っていることです。

パートナーシップ構築宣言とは「サプライチェーンの取引先や価値創造を図る事業者の皆様との連携・共存共栄を進めることで、新たなパートナーシップを構築することを、「発注者」側の立場から企業の代表者の名前で宣言する」ものであり、サプライチェーン構築宣言のHPから詳細を確認することができます。

サプライチェーン構築宣言公式サイト:https://www.biz-partnership.jp/index.html

宣言自体は数分で完了する簡単な手続きですが、公開されるまでには最長で1週間程度の期間が必要になるため、あらかじめ手続きを済ませる必要あります。

サプライチェーン強靭化枠のスケジュール

サプライチェーン強靭化枠のスケジュール

サプライチェーン強靱化枠の申請開始時期

事業再構築補助金サプライチェーン強靱化枠の最初の公募は2023年3月下旬頃と思われます。ただし、他の事業再構築補助金の申請枠が年3回程度予定されているのに対して、サプライチェーン強靱化枠については年1~2回程度の実施を予定していると記載されており、2023年3月の公募で予算を使い切る可能性もあります。

サプライチェーン強靱化枠の補助事業実施期間

また、サプライチェーン強靱化枠については工場の建設等の大規模な投資が想定されていることから、補助事業実施期間が交付決定日~28ヶ月以内(ただし、採択発表日から30ヶ月後の日まで)と他の補助金と比較して長く設定されています。

なお、サプライチェーン強靱化枠についても事前着手が認められる予定です。公募開始後、事前着手申請を提出し、承認された場合は、 2022年12月2日以降(2022年12月2日以降の事前着手開始日として認める日以降)の事前着手を認めます。ただし、設備の購入等では入札・相見積の取得等、補助金のルールに則った経理処理が必要となります。

サプライチェーン強靱化枠の補助対象経費

サプライチェーン強靱化枠の補助対象経費

サプライチェーン強靱化枠の補助対象経費は現時点では不明ですが、「建物費」と「機械装置・システム構築費」の2つに限定される可能性があります。

他の申請枠の場合は広告宣伝費等が補助対象になりましたが、サプライチェーン強靱化枠についてはサプライチェーンの強靱化に直接的に結びつくものだけが補助対象になると思われます。

サプライチェーン強靱化枠の採択率

サプライチェーン強靱化枠の採択率

サプライチェーン強靱化枠は補助金額が他の申請枠と比較して圧倒的に高い一方で求められる要件はそこまで高いではありません。

限られた採択枠に対して多数の申請が殺到する可能性が高く、採択率が低くなる可能性があります。また、申請が殺到した場合には最初の公募で予算が消化される可能性もあり、早い段階でクオリティが高い事業計画を提出することが求められます。

すでに事業再構築補助金を交付されている場合のサプライチェーン強靱化枠の特例

すでに事業再構築補助金を交付されている場合のサプライチェーン強靱化枠の特例

事業再構築補助金では原則として1事業者について採択は1回に限られますが、サプライチェーン強靱化枠については、再申請することが認められています。ただし、サプライチェーン強靱化枠としての交付は上限が1回になるため、サプライチェーン強靱化枠を2回申請することはできません。

また、2回目の事業再構築補助金の採択を受けるためには通常の必要書類に追加して下記の説明資料を提出することが求められます。

①既に事業再構築補助金で取り組んでいる事業再構築とは異なる事業再構築(国内回帰)であることの説明資料
②既存の事業再構築を行いながら新たに取り組む事業再構築を行うだけの体制や資金力があることの説明資料

すでに事業再構築補助金を受けている場合は上記の2つの書類についても追加の審査が行われる予定であるほか、2022年のグリーン成長枠では2回目以降の申請に対して原点措置があったことから、すでに事業再構築補助金の交付を受けている場合はさらに厳しい審査を潜り抜ける必要があるものと思われます。

まとめ

まとめ

事業再構築補助金のサプライチェーン強靭化枠は最大5億円と全国の中小企業に対して幅広く公募する補助金の中では史上最大クラスの補助金となり、事業の拡大を図る製造業の中小企業にとっては非常に魅力的な補助金となっています。

一方で通常の事業再構築の要件に加えて、国内回帰要件や賃上げ、セキュリティ対策など多くを求められる補助金となっています。

自社での申請が難しい場合は補助金の申請を得意とする認定支援機関の支援を受けることをお勧めします。 株式会社プランベースでは事業再構築補助金サプライチェーン強靱化枠の無料相談を承っております。

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この記事の執筆者

村上 貴弘

村上 貴弘

東京大学経済学部卒。
中小企業診断士、行政書士。
2019年株式会社プランベース創業。
2021年meditips行政書士事務所開業。
製造業、建設業、運輸業、ソフトウェア業など幅広い業種の補助金申請支援実績が豊富。特に事業再構築補助金やものづくり補助金、成長投資補助金といった大規模な補助金の申請に強みを持つ。